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忍者してるっていうか間諜してるっていうか。いやぜんぜんシリアスな意味じゃなくて。
悪巧みは得意中の得意!なばっかりが忍者じゃないんでしょうけど、悪戯っぽくてもいいと思う。
彼の笑みがしたたかであること。それが三郎の雷蔵への理由だった。
お人よしである。ぼんやりとしている。まったくもって、困ったやつ。でもふと、おやと思って目をこらしてしまう。
同じ顔をしているのに。同じ顔をしているにも関わらず、雷蔵は三郎にはできない顔で笑う。いや、やろうとすればできないこともない。だが、きっとほんとうの意味ではできない。あれが恐らく、雷蔵の顔。真似のできない部分。三郎が、その顔をしたい、と思う所以。
おおらかに笑う。困ったような顔をして眉をひそめながら笑う。たしなめるように苦笑する。一年坊主になにかを教えつつ、よくできましたとばかりに微笑む。
でも君、結構わるい顔もするよな。私の悪巧みに便乗して。そして顔を見合わせてもくれるよな。
まったくもって、かなわない。
雷蔵は三郎のできない顔をする。だが、三郎が雷蔵の顔でするような顔を、できる。
ずるいぞ、君は。
雷蔵のそういう顔はあまり見ることがなくて、ふたりきりで悪巧みを共謀するときにだけ垣間見ることができて、だからそれが三郎の秘密で理由だ。同時に弱みでもあるのだが、どうしてか不思議と小気味よい。
彼の笑みが無垢であったこと。それが、雷蔵の三郎への理由だった。
素顔を秘密にする彼への、雷蔵の秘密。許してしまうわけ。こやつも人の子であるのだなぁと思ってしまう由縁。もろいところもある、存外に。
朗らかに笑う。雷蔵の顔をしているときは余計に。悪戯をして、或いは演習中に、不敵に笑う。下級生を見て目を細める。気の置けない仲間と年相応の顔で笑い転げる。
でもときどき、ほんのときどき。三郎はほんとうに素敵に笑う。ほとんどこどものような顔で。
変装もなにもかも、鮮やかさが身上のくせに。触れられない鮮やかさ。舞う紅葉のような。その鮮やかさは、存在感だけ強烈に焼きつけるくせに、存在そのものの行方を希薄にする。
なのに三郎は、ときどきすごく綺麗に笑む。
触れられないけど、触れちゃいけないのかもしれないけど。でも触れてやりたい、ここにいるよっていってほしい。いってやりたい。
三郎の微笑みは雷蔵の弱みで理由で、秘密なのだった。
雷蔵が笑う。
それは私のものではないが、と彼を見つつ三郎は思う。
それは私のものではないが、だがしかし、私のものだ。私の秘密だ。
もっとも、私の自由になるものではないが。
それすら小気味よく、三郎は笑った。
三郎が笑う。
それは手の届かないものかもしれないけれど、と雷蔵は少しの距離を隔てて考える。
それは手の届かないものかもしれないけれど、それでも僕は触れたいと考えるのだ。
触れられる綺麗。触れられない綺麗。どちらもうつくしいのであれば、きっと同じことだ。触れることで貶めることにはならないし、触れられないからといって無いことにはならない。
だからまず、こうしよう。
「三郎」
呼びかける。手は届かなくとも声は届く。こちらに来いよ。手の届く距離にまで来てくれよ。
僕はお前が思うよりもしたたかだよ。触れられないものに触れるために、相手をおびき寄せさえするよ。
「なんだい、雷蔵」
声を返した三郎が彼のもとへとやって来る。ほうら、ね。僕は結構、悪巧みをするのだ。
「さっきのお前の案だけど。ちょっといいことを思いついたんだ」
「そりゃあいい。誰よりも最初に私に聞かせておくれ」
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共謀でありつつ、同時にこっそり相手も謀ってる。
悪戯双子の側面も持ってる双忍。
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